東京地方裁判所 昭和32年(行)96号 判決 1959年2月18日
原告 株式会社千葉銀行
被告 京橋税務署長
訴訟代理人 森川憲明 外三名
主文
被告が訴外合資会社桜組工業所の滞納税金につき、同訴外会社無限責任社員安田正に対する滞納処分として同人所有の不動産を公売した代金につき、国税に金百七十三万一千九百八十三円を充当し原告に金百二十五万五千八百五十二円を交付した充当交付処分のうち昭和二十九年八月五日以後発生した利子税及び延滞加算税に公売代金を充当した部分を取消す。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、原告の申立
一、被告が訴外合資会社桜組工業所の滞納税金につき同訴外会社無限責任社員安田正に対する滞納処分として同人所有の不動産を公売した代金につき、国税に金百七十三万一千九百八十三円を充当し、原告に金百二十五万五千八百五十二円を交付した充当交付処分を取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二、被告の申立
原告の請求を棄却する
訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。
第三、原告の主張
一、訴外合資会社桜組工業所(以下訴外会社という)は昭和三十年四月二十日現在国税百十九万一千五百五十八円を滞納していたが、同会社の財産はその滞納税金を完済するに足りなかつたので、被告は同日右滞納税金を徴収するため、同会社の無限責任社員である訴外安田正所有の不動産を差押え、同月二十七日その旨の登記を経た。
二、原告は、右不動産について右安田から昭和二十八年八月五日元本極度額を二百万円とする第一番根抵当権(債務者訴外会社)の設定をうけ、更に、昭和三十年一月十二日元本極度額を百十万円とする第二番根抵当権(債務者安田正)の設定をうけていた。
三、その後昭和三十二年三月二十二日被告は右不動産を公売に付したので、原告が買受人となり公売代金三百万円を納付し、ついで原告は前記抵当権によつて担保された債権合計四百二十万九千四百円に基き公売代金からの交付を要求した。
四、ところが被告は本税に八十五万六千四百九十五円、加算税に二十万四千七百十七円、利子税に六十万百七十一円、延滞加算税に七万六百円、延滞処分費に一万二百六十五円を充当し、原告に対し百二十五万五千八百五十二円を交付する旨を決定しそれぞれ充当交付した。
五、原告は右処分を不服として、同年四月二十七日、被告に対し、再調査の請求をしたところ、被告は同年五月二十五日右請求を棄却し、その頃原告に通知した。そこで原告は更に東京国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は同年八月二十日右請求を棄却し、同月二十二日原告に通知した。
六、しかしながら被告の右処分は左の点において違法である。
(一) 国税徴収法第三条所定の納税人には合資会社の無限責任社員が合資会社の滞納税金につき責任を負う場合を含まないと解すべきにもかかわらず、本件においては被告は訴外、会社の滞納税金につき同社の無限責任社員安田正を右納税人にあたるとして原告の抵当権によつて担保される債権に優先して国税を徴収したこと。
(二) 仮りに合資会社の無限責任社員が合資会社の滞納税金につき責任を負う場合国税徴収法第三条の納税人にあるとしても、その場合同条にいう納期限は無限責任社員に対し納税告知により指定された時期によると解すべきであるが、本件においては安田正に対し納税告知がされていないから、未だ納期は到来せず、原告の低当権は国税の納期限より一年以上前に設定されたことになるから、国税は原告の低当権により担保される債権に優先して徴収せらるべきではないにもかかわらず、これに優先して徴収したこと。
七、よつて右充当交付処分の取消を求めるため本訴に及んだ。
第四、被告の答弁及び主張
(答弁)
原告の主張第一ないし第五項の各事実は認めるが、第六貫は争う。
(主張)
一、合資会社の無限責任社員も合資会社の負担した国税については国税徴収法第三条にいう納税人にあたると解すべきであるから安田正を納税人としてなした本件処分は違法ではない。
二、また同条にいう国税の納期限も滞納者である合資会社に対する納期限によると解すべきであり、訴外会社については各国税の法定納期及び納税告知により指定された納期は別紙充当金目録記載のとおりであつて、右期限によつてなした本件処分は違法ではない。
第五、被告の主張に対する原告の答弁
訴外会社につき各国税の法定納期及び納税告知により指定された納期が別紙充当金目録記載のとおりであることは認める。
第六、証拠<省略>
理由
一、原告の主張第一ないし第五項の各事実は、当事者間に争がない。
二、そこで、先ず、原告が本件処分を違法として争う第一の点について判断する。
一般に、国税はすべての他の公課及び他の債権に先立つてこれを徴収することができるものであるが、これに対し、国税徴収法第三条は一定の要件をそなえた低当権及び質権を保護するため、右例外を定めているのであるが、右規定は当初その財産上に抵当権を設定した者の納税義務を基準として考える趣旨の下に設けられているものと解すべきであるが、右規定にいう納税人のうちには合資会社が納税義務を負う場合の合資会社の無限責任社員を含むと解するのが相当である。
なんとなれば、合資会社の無限責任社員は合資会社が債務を負担すると同時に会社の債務を弁済する責任を負うものであり(たゞその責任の履行が一定の条件、すなわち、会社の債務完済不能又は会社に対する強制執行の不奏効にかゝつているにすぎない)、しかも右責任の発生は会社が私法上の債務を負担する場合のみならず、租税債務のような公法上の債務を負担する場合も同様と解すべきである(国税徴収法第二十九条の規定もこれを前提として責任を履行する条件につき若干特則を認めたものと解すべきである)。すなわち合資会社が租税債務を負担した場合の合資会社の無限責任社員の責任は、その履行が一定の条件にかかるとはいえ、その内容は当初から会社と全く同一であるから、国税徴収法第三条の関係において会社と同様これを納税人と解しても不当でなしいし、また合資会社の無限責任社員に対する債権者としては、その当初から、無限責任社員が合資会社の粗税債務につき責任を履行しなければならなくなることにより、自己の債権に何らかの影響を受ける危険を負担しており、またかかる危険については低当権の設定を受ける際債権者において予測可能なはずであるから、合資会社自体の財産上に抵当権を有する債権者と比較して不測の損害を蒙るおそれが大であるとはいえないことから考えても前記のように解するのが相当である。
よつて本件につき合資会社たる訴外会社の無限責任社員安田正が訴外会社の滞納税金につき国税徴収法第三条の納税人にあたるとしてなした被告の本件処分は原告が違法として争う第一点については違法ではないといわなければならない。
三、そこで次に原告が本件処分を違法として争う第二の点について判断する。
合資会社の滞納税金についてその無限責任社員に対し滞納処分を執行するには、国税徴収法第四条の六、同四条の七の場合と異り納付通知書を発することを要しない(国税徴収法施行細則第七条参照)から、無限責任社員に対する納税告知による固有の納期限を考える余地は法律上ないし、本来合資会社の無限責任社員は、前記のように合資会社が租税債務を負担すると同時に右債務を弁済すべき責任を生じ、その責任の内容は会社債務と同一であるから、その納期限も会社のそれと同一と解するのが相当である。
ところで国税の納期限とは具体的に確定した租税債務の履行期と解するのが相当であるから、申告により確定する本税の納期限は税法上法定された期限であることは疑いないが、更正または決定により確定した本税及び決定により確定する各種加算税の納期限は法定期限によるべきではなく、納税告知により指定された納期限を指すと解すべきである。けだしかかる諸税は更正または決定の通知により始めて具体的な納税義務が確定するのであるから、その義務の履行期は少くとも右義務の確定後であるべく、右義務の確定前たる法定納期にまで遡ることは特別の規定がない限り許されないと解すべきであるからである。 次に利子税及び延滞加算税の納期についてはこれを本税の納期と同一とする考え方もないではないが、利子税及び延滞加算税は本税の納付遅延の事実に応じ、具体的に確定するのであり、しかも本税とあわせて納付又は徴収すべきものであるから、本税の納期経過後又は督促の指定期限後その納付遅延の日毎に具体的に義務が発生し直に納期にいたると解するのが相当である。国税徴収法第二条第五項のような規定のない同法第三条の関係においては利子税及び延滞加算税の納期限をその発生前に遡及させ本税の納期と同一であると解することは許されないと解すべきであるからである。
そこで本件についてみると、別紙充当金目録記載の各本税及び各加算税(延滞加算税を除く)については法定期限及び納税告知により指定された期限が同目録記載のとおりであることは当事者間に争がなく、原告の抵当権の設定された日は右納期より前一年内であるか納期限以後であるから右本税及び加算税に原告の低当権により担保される債権に優先して公売代金を充当したことは正当である。しかし利子税及び延滞加算税については昭和二十九年八月五日以後に発生した分については昭和二十八年八月五日設定された原告の抵当権により担保される債権に優先しないといわなければならない(弁論の全趣旨により原告は公売代金の交付要求の際右抵当権が同日設定されたことを公正証書をもつて被告に対し証明したものと認められる。)
四、よつて被告の本件充当処分のうち昭和二十九年八月五日以後に発生した利子税及び延滞加算税に公売代金を充当した部分のみ違法であるから原告の本訴請求中、右部分の取消を求める限度においては正当であるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 地京武人 石井玄 越山安久)
充当金目録(一)
年度
税目
法定納期
本税額
(円)
加算税額
(円)
利子税額
(円)
納税告知日
指定納期
延滞加算税額
(円)
同上納税告知日
同上納付指定期限
備考
源泉所得
二六、五、一〇
一二、三〇〇
二七、一一、二九
二七、一二、三一
〃
〃
二六、九、一〇
八六、四〇〇
二七、一〇、二八
二七、一一、二九
〃
〃
二七、八、一〇
六、二四〇
二八、二、二八
二八、三、三一
〃
〃
二六、二、一〇
五、八二一
計
六七、七八二
二七、七、三一
二七、八、三一
〃
〃
二六、三、一〇
六、三八八
〃
〃
〃
二六、四、一〇
一三、八二八
〃
〃
〃
二六、五、一〇
二〇、四一二
〃
〃
〃
二六、六、一〇
二一、三三三
〃
〃
〃
二七、七、一〇
二三、〇一一
二七、七、三一
二七、八、三一
〃
〃
二六、五、一〇
一五、六〇〇
二七、七、三一
二七、一二、三一
〃
〃
二六、六、一〇
一、五〇〇
〃
〃
〃
二六、一一、一〇
三、九〇〇
二七、一一、二九
二七、一二、三一
〃
〃
二六、一二、一〇
七一、一〇〇
〃
計
二八七、八三五
充当金目録(二)
年度
税目
法定納期
本税額
(円)
加算税額
(円)
利子税額
(円)
納税告知日
指定納期
延滞加算税額
(円)
同上納税告知日
同上納付指定期限
備考
二八
法人
二七、二、二九
一〇二、五八八
六九、六〇〇
(期限後申告)
二八、一一、一六
六、五五〇
二八、一二、二一
二八、一二、三一
〃
〃
〃
一九、六五〇
二八、一〇、一五
二八、一一、一六
〃
〃
二八、八、三一
二〇、三七〇
九、一〇〇
(申告)
一、〇〇〇
二八、九、二一
二八、一〇、一
〃
〃
二七、八、三一
九、八九〇
五、四〇〇
二七、一〇、二一
二七、一〇、三一
〃
計
一二二、九五八
一九、六五〇
八八、五九〇
一二、九五〇
充当金目録(三)
年度
税目
法定納期
本税額
(円)
加算税額
(円)
利子税額
(円)
納税告知日
指定納期
延滞加算税額
(円)
同上納税告知日
同上納付指定期限
備考
二七
源泉所得
二七、八、一〇
一一、六〇八
二八、三、二八
二八、三、三一
〃
〃
二七、九、一〇
二〇、八二九
〃
〃
〃
二七、一〇、一〇
二四、七一二
〃
〃
〃
二七、一一、一〇
二二、七〇七
〃
〃
〃
二七、一二、一〇
三二、三〇八
〃
〃
〃
二八、一、一〇
三三、二六二
〃
二八
〃
二九、一、一〇
二四、九四七
二九、三、三一
二九、四、三〇
〃
〃
二八、一二、一〇
二一、四二六
〃
〃
〃
二八、一一、一〇
八、二〇一
〃
計
二〇〇、〇〇〇
充当金目録(四)
年度
税目
法定納期
本税額
(円)
加算税額
(円)
利子税額
(円)
納税告知日
指定納期
延滞加算税額
(円)
同上納税告知日
同上納付指定期限
備考
二八
源泉所得
二八、一一、一〇
八、五七七
四、〇〇〇
六、八三〇
二九、三、三一
二九、四、三〇
八〇〇
二九、五、二七
二九、六、七
〃
〃
二八、一〇、一〇
一六、二三六
四、〇〇〇
六、八三〇
〃
八〇〇
〃
〃
〃
二八、九、一〇
二三、三二七
五、七五〇
一〇、三七〇
〃
一、一五〇
〃
〃
〃
二七、三、一〇
二九、〇〇〇
七、二五〇
一九、八〇〇
二九、一、七
二九、一、三〇
一、四五〇
二九、二、一二
二九、二、二二
〃
〃
二八、一、一〇
一五、九五〇
三、七五〇
一〇、〇六〇
〃
七五〇
〃
〃
〃
二八、二、一〇
二三、〇四〇
五、七五〇
一二、三五〇
二八、一二、五
二九、一、一一
一、一五〇
二九、一、二五
二九、二、五
〃
〃
二八、七、一〇
一、一三一
二八、一一、二
二八、一一、三〇
〃
〃
二八、五、一〇
八五〇
二八、六、三〇
二八、七、三一
〃
〃
(註一)
三二、〇〇〇
二八、五、三〇
二八、六、三〇
〃
〃
二六、一二、一〇
八、七一〇
二九、三、三一
二九、四、三〇
一、〇五〇
二九、五、二七
二九、六、七
〃
〃
二九、一、一〇
九、六七〇
〃
一、二〇〇
〃
二七
〃
二七、二、一〇
三、四一〇
二七、七、三一
二七、八、三一
二五〇
二七、九、四
二七、九、一五
〃
〃
二七、三、一〇
四、〇二〇
〃
三〇〇
〃
〃
〃
二七、四、一〇
八、五七〇
〃
六五〇
〃
〃
〃
二七、五、一〇
一二、九四〇
〃
一、〇〇〇
〃
〃
〃
二七、六、一〇
一三、三三〇
〃
一、〇五〇
〃
〃
〃
二七、七、一〇
一四、三二〇
二七、一〇、三一
二七、一一、二九
一、一五〇
二七、一二、二七
二八、一、一〇
〃
〃
二六、五、一〇
一一、八九〇
二七、一一、二九
二七、一二、三一
七五〇
二八、一、二二
二八、二、二
〃
〃
二六、六、一〇
七四〇
〃
〃
〃
二六、一一、一〇
二、一五〇
〃
一五〇
二八、一、二二
二九、二、二
〃
〃
二六、一二、一〇
五〇、一九〇
〃
三、五五〇
〃
〃
〃
二七、一、一〇
八、三四〇
〃
六〇〇
〃
〃
〃
二六、九、一〇
六三、八九〇
〃
四、三〇〇
〃
〃
〃
二七、八、一〇
一〇、三五〇
二八、二、二八
二八、三、三一
八五〇
二八、四、一五
二八、四、二五
二七
源泉所得
二七、九、一〇
一一、九四〇
二八、二、二八
二八、三、三一
一、〇〇〇
二八、四、一五
二八、四、二五
〃
〃
二七、一〇、一〇
一四、〇四〇
〃
一、二〇〇
〃
〃
〃
二七、一一、一〇
一二、六〇〇
〃
一、一〇〇
〃
〃
〃
二七、一二、一〇
一七、九五〇
〃
一、六〇〇
〃
〃
〃
二八、一、一〇
一八、一一〇
〃
一、六五〇
〃
〃
〃
(註二)
一五、二五〇
〃
〃
〃
(註三)
五、七五〇
〃
〃
〃
二六、一、一〇
三、七五〇
〃
〃
〃
二七、七、一〇
五、七五〇
二七、一〇、三一
二七、一一、二九
〃
〃
(註四)
四七、〇〇〇
二七、一一、二九
二七、一二、三一
〃
〃
二六、一二、一〇
四、七五〇
二七、三、三一
二七、四、二一
二九
〃
(註五)
一七、〇〇〇
二九、五、三一
二九、六、三〇
二七
法人
二六、二、二八
一九、三五〇
三〇、四〇〇
二七、六、三〇
二七、七、三一
五二、〇〇〇
二七、八、三〇
二七、九、一〇
〃
〃
二七、二、二九
△三、一一七
四八、二五〇
〃
一七、九〇〇
〃
〃
〃
二七、二、二八
一〇一、一一〇
六八、四〇〇
(申告)
五、〇五〇
二七、五、三〇
二七、六、一〇
〃
〃
二七、八、三一
二八四、六二〇
○(申告)
計
二四五、七〇二
一八五、〇六七
五一一、五八一
五七、六五〇